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評価50%超の企業なし、首位争いは3社(テスラ、フォード、メルセデス・ベンツ)で接戦

Location――リード・ザ・チャージ(Lead the Charge)は11日、「自動車のサプライチェーンに関するリーダーボード」第3版を発表しました。年1回発行しているリーダーボードは、電気自動車(EV)への移行に伴う化石燃料を使用しない公正で持続可能なサプライチェーンの構築に向けた取り組みについて、世界の自動車メーカー18社を評価しています。2025年版の分析によると、自動車メーカー各社が一部の分野で注目すべき成果を上げているものの、業界全体としてサプライチェーンのクリーン化に向けた進展は遅く、不十分な状況が続いています。50%を超える総合スコアを達成した自動車メーカーは3年連続ゼロで、18社全体の平均スコアはわずか22%にとどまっています。

この包括的なベンチマークは1,584のデータ項目を基に、88の指標を用いて、各社のサプライチェーンにおける気候と環境、人権への影響に対する取り組みを評価しています。リーダーボードは、取締役会の承認を経て公開された企業情報を分析したものです。今回の分析に含まれる企業の開示情報は2024年7月1日までの情報としました。

今回、リーダーボードの首位争いは3社による接戦となり、テスラがフォードを0.5%、メルセデス・ベンツを1.4%上回り、僅差で首位となりました。テスラのサプライチェーン・チームは、サプライチェーンマッピングの取り組みや採掘事業者との直接調達契約に関する詳細な情報を開示するなど多くの分野で重要な進展を成し遂げています。また、テスラは引き続き、鋼材、アルミニウム、バッテリーの各サプライチェーンについて、スコープ3排出量を個別に開示している唯一の自動車メーカーとなっています。しかし、同社の総合スコアは43%にとどまり、鋼材・アルミニウムの脱炭素化や労働者の権利など複数の課題で競合他社に後れを取っています。

「今回のリーダーボードの評価結果は明確です。一部の自動車メーカーは確固とした方針やコミットメントを掲げてますが、それらを実践するという段階になると、いずれの企業も十分な成果を上げられていません。しかし、行動に移すことは可能です。自動車メーカーは互いに学び合い、各指標分野におけるベストプラクティスを取り入れるべきです。公正なサプライチェーン、責任ある鉱物調達、そして公正な移行に向けた確実な進展は、必要不可欠であり可能なのです」と、米国の環境NGO・Earthworksの鉱業部門共同ディレクター代行であるEllen Moore氏は述べています。

2025年版リーダーボードの主な評価結果:

  • 最も大きな進展を見せたのはボルボで、総合スコアが9ポイント上昇しました。8つの区分のうち7つでパフォーマンスを改善したほか、気候と環境部門の指標においても大幅なスコア上昇を達成し、ボルボは同部門で業界平均の2倍以上のスコアを記録しています。
  • テスラは首位を獲得したものの、 その地位は不安定です。 ポリシーチームの取り組みにより、同社は2024年に世界的な気候変動関連のロビー活動において好ましい実績を上げ、これが今回の評価を押し上げる重要な要因となりました。しかし、1 The Leaderboard applies InfluenceMap’s assessment of companies’ climate lobbying practices (last updated in May 2024) as a point modifier to automakers’ scores on fossil-free and environmentally sustainable supply chains. 米国のEV税額控除の廃止を支持しているという最近の報道を踏まえると、 テスラはこの好ましい実績を維持しない限り、2026年版のランキングで容易に首位から転落する可能性があります。 
  • フォードは3年連続で「人権・責任ある調達」部門においてトップスコアを獲得し、メルセデス・ベンツは評価対象の自動車メーカーの中で唯一、リーダーボードの8つの区分すべてにおいてトップ5に入りました。
  • 2年連続で中国の自動車メーカーの吉利汽車(Geely)は最大級のスコアアップを達成し、サプライチェーンの持続可能性と責任ある調達に関して顕著な進展を示しました。起亜自動車(Kia)とフォルクスワーゲンも今回、注目に値するスコア上昇を達成しました。
  • 日本の自動車メーカーのトヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業(Honda)は、今回極めて低調な結果となり、総合スコアの改善が非常に小幅にとどまりました。トヨタとHondaは人権デュー・ディリジェンスにおいて重要な進展を見せたものの、いずれの企業もサプライチェーンの持続可能性と脱炭素化のスコアに改善は見られませんでした。実際、トヨタは2023年版から評価対象となっている企業の中で唯一、この分野でスコアが全く改善していない企業となっています。

今回のリーダーボードでは、自動車サプライチェーンの持続可能性に関するいくつかの重要な傾向も明らかになりました。この結果は、鋼材・アルミニウムの脱炭素化に関して憂慮すべき状況を示しています。昨年版では複数の自動車メーカーが次々と進展を見せ始めていたものの、今年版ではパフォーマンスが概ね停滞しています。鋼材とアルミニウムは、EVの原材料調達・製造に伴う温室効果ガス排出量平均値の約50%を占めており、自動車産業は鋼材とアルミニウムの主要な需要先となっています。

「自動車産業が温室効果ガスを排出しない鋼材やアルミニウムの開発・調達に向けた進展を見せていないことは、深刻な懸念事項です。鋼材とアルミニウムの製造からの排出は世界の温室効果ガス排出量の約10%を占めています。自動車メーカーは、何も行動を起こさないことについて言い訳はできません。もはや中途半端な対応では済まされません。今こそ、低炭素型サプライチェーンに本気で取り組む時です」と米国の消費者擁護団体Public Citizenの気候プログラムのサプライチェーン・キャンペーン担当上級スタッフのCarly Oboth氏は述べています。

「自動車メーカーと鉄鋼メーカーを傘下に持つグループとして、Hyundai Motor Groupは、特に鉄鋼生産においてサプライチェーンの脱炭素化を実現する可能性を持っています。それにもかかわらず、この分野で明確な進展が見られないのは残念です。同グループの将来の競争力を確保するために、現代製鉄はサプライチェーンをクリーン化し、グリーンスチールの生産を加速さる必要があります」と韓国の環境NGO・Solutions For Our Climate(SFOC)のグリーンスチール担当リーダーであるHeather Lee氏は述べています。

一方で、これまでほぼ業界全体が先住民族の権利について行動を起こさない状態が2年続いたあと、この1年は複数の自動車メーカーが新たなコミットメントを表明したり既存のパフォーマンスを改善するなど、この課題に関する機運が高まっていることが初めて示されました。しかしながら、全企業の平均スコアはわずか6%であり、引き続き他のどの区分と比べても大幅に低いスコアとなっています。

「少数の先行企業が、先住民族の権利を尊重するための方針を採用する動きを見せていることは認識しており、これらの方針がサプライチェーン全体で実施されることを期待しています。しかし、自動車産業全体としては依然として先住民族の基本的な権利を軽視し続けていることに、深い懸念を抱いています。すべての自動車メーカーは、単なる認識にとどまることなく、これらの権利を守るための具体的な行動を早急に取らなければなりません」と先住民族の権利保護を掲げるSIRGE Coalitionのエグゼクティブ・ディレクターであるGalina Angarova氏は述べています。

今回の結果は、サプライチェーンの持続可能性とデュー・ディリジェンス、EVの製造に関する企業のパフォーマンス向上に取り組んできた政策立案者や規制当局を勇気づけるメッセージとなりました。リーダーボードで今回大きな進展が見られた分野は、欧州バッテリー規則や企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)など最近承認された政策・規制が対象としている分野でもありました。このことは、現在弱体化の危機に瀕しているCSDDDなど説明責任に関するEUの厳格な法規制を維持することがいかに重要かを浮き彫りにしています。これらの施策の弱体化は、これまでに達成された進展を危うくし、約束された変革の道筋を妨げることになりかねません。

「今回のリーダーボードの評価結果は、EUの野心的な法規制が推進力となり、自動車メーカーが持続可能なサプライチェーンの実現に向けて実践を進めている様子を示しています。欧州バッテリー規則は着実な前進の道筋を示しており、CSDDDなどの法規制はこれまでに達成された重要な進展を損なわないよう、現状のまま維持されるべきです」と欧州環境NGO・T&Eの原材料分野担当オフィサーであるFranziska Grüning氏は述べています。

全体的な進展は遅いものの、今回の結果は自動車業界がさらなる改善を実現できるという希望を抱かせるものでもあります。少なくとも1社は指標の半数以上が求める基準を完全に達成しており、各分野で最高のパフォーマンスを示している同業他社と同等の取り組みを行うことで、各社は70%以上までスコアを伸ばすことができます。業界をリードする企業のベストプラクティスを他の企業が取り入れれば、大幅な改善が可能です。

「リード・ザ・チャージ・リーダーボードは、自動車業界がサプライチェーンをクリーンにする責任を果たしているかを問うものです。各社が不可避かつ重要な世界的EV転換に投資する中で、まだ多くの課題が残されていることは明らかです」と、シエラクラブの「クリーン・トランスポーテーション・フォー・オール」キャンペーンのディレクターであるキャサリン・ガルシア氏は述べています。「現在の車両排出基準のおかげで、スコアカードの上位企業によるEV市場の拡大が進んでいます。しかし、今回もまた世界最大の自動車メーカーであるトヨタが最下位となり、スコアカードの初版以来、何の改善も見られませんでした。気候危機の最悪の事態を回避するためには、すべての自動車メーカーがEV製造のスピードを加速させる必要があります。時間が限られています。」

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About Lead the Charge:  (Lead the Charge) is a diverse network of local, national, and global advocacy partners working for an equitable, sustainable, and fossil-free auto supply chain. Network members work across multiple geographies and issues, with expertise in climate, environmental justice, human rights, Indigenous rights, heavy industry, ESG and more.

Footnotes

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    The Leaderboard applies InfluenceMap’s assessment of companies’ climate lobbying practices (last updated in May 2024) as a point modifier to automakers’ scores on fossil-free and environmentally sustainable supply chains.